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私がチベット仏教の寺院に、生まれて初めて触れたのがこのタール寺であった。
その衝撃は今も忘れられない。
チベット仏教の知識を何も持たずに行った私がまず衝撃を受けたのが、「におい」であった。
お寺じゅうに羊肉のような匂いが充満している。これは、ヤクや羊のミルクで作ったバターの蝋燭が原因なのだが、「お寺=お線香の香り」という先入観しか持っていなかった私は一瞬で気分が悪くなった。
お寺と言えば、肉類とはおよそ無縁の世界と思っていたのにその獣臭さに精神的なショックさえ感じた。
逃げ出したくなるような臭いだった。
衝撃その2。小金瓦殿の剥製。
タール寺のなかに小金瓦殿という2階建ての小ぶりな寺院がある。
門をくぐり、ふと2階を見上げると、何とヤク、ヤギ、クマなどが2階のバルコニーからこちらを見ている。
思わず悲鳴を上げてしまったが、よく見るとそれは剥製だった。
寺に剥製!? 「アリエネー!」世界であった。
仏教では悪とされる殺生と、動物の剥製が私の頭では全く相容れない。混乱の極致であった。
この他にも赤い柱や色とりどりのタルチョ(小旗)、バターで作った花の彫刻や壁じゅうに描かれたマンダラなどのド派手な色遣いに目を白黒させ、また初めて見た五体投地には涙が止まらなかった。
あれから20年。この間ラサや甘粛、雲南のチベット仏教寺院を数多く見てきたこともあり、においもさほど気にならなくなってしまった。
雨の中、水たまりも気にせず五体投地を続ける新婚夫婦を見ても泣けるほどには感動しなくなってしまった。
そういう自分をどこか寂しく感じたタール寺との再会であった。
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