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青島 - 独断・偏狂の私的旅行記
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山東省・青島(チンタオ)
青島は坂の多い街だ。坂道に沿って赤い屋根、黄色い壁の洋館が建ち並ぶ。道の両側に植えられた鈴掛の並木が、洋館と相まって、この街の姿をいっそう洒落たものにしている。曲がりくねった坂道をのぼっていると、一瞬、どこかヨーロッパの街角にでもいるような感覚におそわれる。
チンタオ。街の名にも、どこかモダンな響きがある。およそ百年前、ドイツが租界地として港を開き街を造った。第一次世界大戦が起こると、今度は日本がその権益引き継いだ。「チンタオを返せ」。一九一九年の五・四運動、北京の学生たちは天安門前でこう叫んでいた。「洒落ている」ことが、地元の人々にとっては屈辱の記憶にも繋がる。
歩くうちに教会の前に出た。青い尖った屋根。その上の十字架。なかから歌声が聞こえてくる。平日の午後だが何か信者たちの集会が開かれているのだろう。迷いながらも重い扉を押し、そっと入ってみると、15人程の人たちが讃美歌を歌っていた。後ろの席に腰掛けていると、初老の女性が近づいてきた。
「日本の方ですか。もっと前の方にどうぞ。一緒に歌いませんか」
そのままの席で彼らの歌を聴かせてもらうお願いをした。先程の歌の名を尋ねると、神が与えたもうたたくさんの恵みを思い出しなさい、という讃美歌だと教えてくれた。洋館とビール工場だけではなく、ドイツ人は、この街に信仰も残していったのだろう。
小一時間もいただろうか。先程の女性に目礼をし、外へ出ると暗い堂内に慣れが目に午後の光がまぶしい。目を上げると、正面に海が見える。赤い屋根の段々の連なりの先に海が青く輝いている。海から吹いてくる春の風が心地よい。屋根の赤と海の青、青島は不思議な明るさに包まれた街である。
(中日新聞・東京新聞の2001年6月3日日曜版に掲載)
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